■パルス型消費行動とは?

個人消費研究No.1では、Googleによるバタフライ・サーキットモデルについて触れました。Googleは情報検索行為の8つの動機を「さぐる動機」と「かためる動機」に分類し、それぞれが交互に繰り返されるイメージが蝶のように表現できることからバタフライ・サーキットモデルと同社は説明して命名しています。AIDMA等の古典的なモデルでは購買の意思決定がシーケンシャルに展開されることを前提としていますが、バタフライ・モデルは、消費者は購入意思を徐々に高めているものではないと述べているように思われます。

バタフライ・サーキットモデルのイメージ

出所:Google発表内容を基に作成

 

実はGoogleはバタフライ・サーキットモデルの説明に際して、もうひとつ「パルス型消費行動」というモデルも発表しています。パルス型消費行動について同社は次のように説明しています。

『現代の日本人にとって、24 時間すべてが買い物のタイミングであり、空き時間にスマホを操作しながら瞬間的に買いたい気持ちになり、買いたいと思う商品を発見し、その瞬間に買い物を終わらせるという消費行動が広まっていることがわかります。われわれはこのような行動を「パルス型消費行動」と呼び、従来のような、ある程度時間をかけて買いたい気持ちを醸成させる「ジャーニー型消費行動」とは区別すべきと考えました。』(原文のまま)

出所:https://www.thinkwithgoogle.com/intl/ja-jp/marketing-strategies/app-and-mobile/shoppersurvey2019-2/

パルス(Pulse)とは日本語で脈拍、鼓動を意味します。普段の生活においてふとした瞬間に「これ欲しい」と思い立ったり、街中を散歩している途中にふとしたことがきっかけで商品を購入するといったことがあるでしょう。パルス消費はまさにその瞬間の鼓動の高まりとともに実際に購入に至る現実を説明づけるものであります。

パルス型消費行動のイメージ

■パルス型消費行動を起こす主因のひとつはスマホによるマイクロモーメント検索

なぜそのような消費行動が起きるのかですが、その主因のひとつはスマートフォンの普及にあると考えます。Googleではスマートフォンで日常生活のあらゆる場面において、いつでもどこでも検索する行為を「マイクロモーメント検索」と定義しています。バタフライ・サーキットモデルとの関連で言えば、消費者は“さぐる動機”と“かためる動機“をぐるぐると行ったり来たりする過程において、突発的にパルス消費行動を起こしてしまうのではないかと私は思います。パルス消費型消費行動は場合によっては衝動買いと同じではないかという疑念が生じるかもしれません。しかしながら、バタフライ・サーキットモデル、マイクロモーメント検索の関連の流れで捉えれば、決してパルス型消費行動が衝動買いではなく、その背景が存在するということが理論的に言えるのではないでしょうか。消費者行動モデルは長らく学術的な研究が存在しますし、AIDMAのようなわかりやすい意思決定プロセスについても長年多用されてきました。しかしながらインターネットの一般社会への溶け込みをベースにスマートフォンの広範囲な普及によって、消費者行動の考え方が根底から覆るというレベルではないにせよ、変化を感じざるを得ません。参考までにバタフライ・サーキットモデル、マイクロモーメント検索、パルス型消費行動を論理的に組み合わせて以下のように図で表現してみました。ただしあくまでも概念的なものであり、ここまで深くインターネットが社会生活に染み付いた時代においては、消費者の意思決定は何らか特定のモデルで明確に説明できるものではなく、曖昧で予測できない複雑なものであるということが言えるかもしれません。

バタフライ・サーキットモデル、マイクロモーメント検索、パルス型消費行動を論理的に組み合わせた概念図

■パルス型消費行動が生じやすいケース

パルス型消費行動は全ての消費行動で生じるかと言えば、決してそうではないでしょう。具体的に当てはまると思われるケースは次の通りではないかと考えられます。

①商品の価格面
絶対値としての価格の多寡はその消費者の財力や消費スタンスに依存するため、さほど関連はないでしょう。それより、商品のカテゴリーを問わず仮に購入が成功ではなかったとしても経済的損失が当人にとって大きくない、許容できる(結果的に心理的ダメージが大きくないもの)と当該消費者が判断する際にパルス型消費行動が生きやすいと考えます

②商品の「財の性質」面
SNS等ネット上で有効な情報を取得しやすい時代であることから、探索財、経験財、信用、以上「財の三分類」から見てパルス型消費行動が生じやすいものは特定できないと見ます。しかしながら、しいて言えばパルス型消費行動は突発性がある点から、何らかの外的刺激などにより情報の非対称性が唐突に解消しそうと思い行動に至るかもしれません。そういう意味では、情報の非対称性が本質的に大きい経験財、信用財において生じやすい傾向があるかもしれません。

③競合の遠近の面
例えばマクドナルドの競合はロッテリア、モスバーガーでしょうか。しかしランチという括りでは吉野家やそば・うどん店も入ります。場合によってはコンビニの弁当も含まれるでしょう。商品の類似性の点でロッテリアやモスバーガーは近距離の競合であり、その他の外食店は非近距離(遠距離ではなく)の競合になります。しかし競合の遠近に関わらず、消費者目線でとらえればマクドナルド競合は確実に広範囲に亘ります。この場合、商品の類似性=競合度の遠近から競合を捉えてしまうと、消費者の意思決定を見誤ってしまうかもしれません。外食を例に挙げて説明しましたが、日用品や食品でも同様のことが言えるでしょう。現代においては非近距離の競合もパルス型消費行動であっという間に消費者は購入に至ってしまうかもしれません。したがって、パルス型消費行動では広範囲な競合に気を付けなければなりません。

■事業者側ができること

事業者側ができることは情報コンテンツかもしれないのですが、情報コンテンツ面ではやはり当該商品のメーカーや小売企業ではなく、消費者によるSNS等による情報が左右すると考えます。実際にはSNSマーケが多数実践されてはいますが、これはなかなかメーカーや小売りといった提供側が意図的にコントロールしづらい部分であります。情報コンテンツ面から正当にパルス型消費行動を誘発させようと画策しても、独りよがりの内容になってしまうリスクも想定されます。裏を返せば提供側ができることは実際には限られているかもしれません。あえて挙げるのであれば、必要な情報コンテンツを真摯にかつ地道に発信する(心理されるかどうかは別として)以外にないと思います。また、それとは別にWebサイトや情報コンテンツ説明におけるユーザビリティは極めて重要でしょう。商品が飽和しておりメディアも多く存在する中で、消費者が特定の商品に割り当てることが可能な思考時間や思考エネルギーは限定されます。その限定された中で購入してもらうためにはユーザビリティの重要性は言うまでもないと私は考えます。

以上